融資の希望額はどうやって決める?
決め方・計算方法・銀行への説明例を公認会計士が解説
融資希望額は、単に「借りられそうな金額」から決めるのではなく、資金使途から積み上げた金額と、借入後の返済原資・借入残高を並べて整理します。本記事では、300万円と500万円の具体例を使い、希望額の計算過程を説明できる状態にする方法を解説します。
融資実行の可否・金額・条件は金融機関が決定します。その判断では、直近の業績、借入残高、返済原資、資金使途、取引状況など、申込時点までに積み上がった事実と数値が主な材料になります。
そのため、提示された結果に感情的に一喜一憂するより、金融機関とのやり取りを、「数字と資料を使って、会社の現状と希望額の計算過程を確認する作業」と捉えると、落ち着いて話を進めやすくなります。
もちろん、数値だけですべてが決まるわけではなく、金融機関ごとに判断基準や確認事項は異なります。それでも、過去の数字を不安に思い続けるより、今ある数字を正確に整理し、根拠資料とともに説明することへ集中する。これが、本記事を読み進めるうえでの大前提です。
この前提を踏まえ、ここからは融資希望額の計算過程を、資金使途と借入後の数値に分けて整理します。
融資希望額は「使い道」と「借入後の数値」から決める
「300万円にするか、500万円にするか」。融資を検討する際、最初に迷いやすいのが希望額です。
希望額を整理するときは、次の2方向から計算します。
1. 資金使途から積み上げる
仕入、外注費、設備、工事費など、支払内容・金額・支払日を並べます。
2. 借入後の数値を確認する
希望額を加えた借入残高、年間簡易キャッシュフロー、債務償還年数を計算します。
希望額の計算過程を整理する目的は、金融機関に結論だけを伝えるのではなく、「何に、いつ、いくら使うのか」「借入後の借入残高は何年分の返済原資に相当するのか」を数値で説明できるようにすることです。
実際の融資額・条件は、申込内容、金融機関の基準、担保・保証の状況などを踏まえて金融機関が決定します。
資金使途から希望額を積み上げる
資金使途は、大きく運転資金と設備資金に分けて考えます。同じ500万円でも、仕入・人件費に充てる場合と、機械設備に充てる場合では、金額の組み立て方や準備する資料が異なります。
運転資金:支払いと入金の時間差を並べる
運転資金が必要になる理由は、売上や利益の有無だけではありません。仕入代金・人件費などの支払いが先に来て、売掛金の入金が後になると、その時間差を埋める現金が必要になります。
この時間差は、売掛金・棚卸資産・仕入債務の回転期間を使うと整理しやすくなります。
| 項目 | この例の期間 | 現金への影響 |
|---|---|---|
| 棚卸資産回転期間 | 30日 | 商品を仕入れてから販売するまで、現金が在庫に変わっている期間 |
| 売上債権回転期間 | 60日 | 販売してから売掛金が入金されるまで待つ期間 |
| 仕入債務回転期間 | 30日 | 仕入れてから買掛金を支払うまで、支払いを待てる期間 |
= 現金でつなぐ期間60日
この例では、仕入代金を支払ってから売上代金が入金されるまで、約60日間を手元資金でつなぎます。人件費・家賃など、買掛金にできず毎月支払う費用も、この期間中に現金を減らします。
時系列で見ると、入金前に現金が不足する
次の例では、期首の手元現金350万円から始め、商品販売による600万円の売掛金が8月末に入金されます。一方で、仕入代金300万円、人件費150万円、固定費100万円は入金より先に支払います。
| 時期 | 主な動き | 入金 | 支払い | 支払後の現金残高 |
|---|---|---|---|---|
| 6月初め | 期首の手元現金 | 350万円 | ― | 350万円 |
| 6月25日 | 人件費を支払う | ― | 150万円 | 200万円 |
| 6月30日 | 仕入代金を支払う | ― | 300万円 | ▲100万円 |
| 7月31日 | 家賃等の固定費を支払う | ― | 100万円 | ▲200万円 |
| 8月31日 | 6月販売分の売掛金が入金 | 600万円 | ― | 400万円 |
※説明を単純化するため、上記以外の入出金、税金、借入返済等は含めていません。
売上600万円は計上されていても、入金は8月末です。
それまでに仕入・人件費・固定費の支払いが合計550万円発生するため、7月末時点では現金が200万円不足します。この不足期間をつなぐ資金が運転資金です。
実際には、同じ取引が毎月連続して発生します。売上が増えるほど、売掛金や在庫も増え、入金前に必要となる現金が増える場合があります。そのため、利益が出ていることと、支払日に現金が足りることは分けて確認します。
運転資金の金額を貸借対照表から確認する際に使われる計算式の一つが、次の式です。
この計算結果は、売上入金までの間に在庫や取引条件によって固定されている資金を確認するための数値です。希望額を組み立てる際は、この数値と、月別資金繰り表で確認した最大不足額を並べます。
売上代金の入金は、早いほど手元資金に余裕が生まれます。反対に、仕入代金の支払いは、遅いほど手元資金を長く残せます。
つまり、「売上は早く回収し、仕入は支払期限まで長く持つほど、入出金の時間差による資金不足は小さくなる」と覚えると、運転資金の仕組みを理解しやすくなります。実際の入金日・支払日は、取引先との契約条件に従って確認します。
設備資金:見積額と付随費用を並べる
設備資金では、設備本体だけでなく、設置工事、運送、初期設定などの付随費用も分けて記載します。見積書の金額と希望額が一致しない場合は、自己資金で支払う部分など、差額の内訳を整理します。
= 希望額を考える際の積み上げ額
設備の支払日と稼働開始日も並べます。設備導入後すぐに売上入金が始まるとは限らないため、導入後の運転資金を別に整理する場合もあります。
返済原資と借入後の数値を確認する
資金使途から金額を積み上げた後は、現在の借入残高に希望額を加え、年間簡易キャッシュフローと債務償還年数を計算します。
年間簡易キャッシュフローの計算
簡易キャッシュフローは、会社が1年間に生み出す返済原資を簡易的に表す数値です。本記事では、次の式を使用します。
実際の資金繰りでは、税金、設備投資、運転資金の増減なども現預金に影響します。簡易キャッシュフローは、返済原資を確認するための簡易的な指標として使用します。
債務償還年数の計算
債務償還年数は、借入残高が年間簡易キャッシュフローの何年分に相当するかを示す数値です。
借入後を確認する場合:
(既存借入残高 + 希望額)÷ 年間簡易キャッシュフロー
自己試算では、一般的に使われる目安の一つとして10年で比較する方法があります。ただし、業種、設備の内容、返済期間、金融機関の基準などにより確認方法は異なります。10年という数値だけで融資の可否・金額・条件が決まるものではありません。
融資希望額300万円・500万円の計算例
例1:運転資金として300万円を希望する場合
年間簡易キャッシュフロー100万円、既存借入残高600万円の会社が、仕入と支払いに充てる運転資金300万円を希望する例です。
| 資金使途 | 金額 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 商品仕入 | 200万円 | 発注書・見積書 |
| 家賃・外注費等の支払い | 100万円 | 請求書・資金繰り表 |
| 希望額 | 300万円 | 内訳合計と一致 |
900万円 ÷ 年間簡易キャッシュフロー100万円 = 債務償還年数9年
この例では、「商品仕入200万円と固定費等100万円に充てる」「借入後残高は900万円」「債務償還年数は9年」という3点を並べて説明できます。
例2:設備資金として500万円を希望する場合
年間簡易キャッシュフロー100万円、既存借入残高400万円の会社が、設備本体と設置工事に充てる500万円を希望する例です。
| 資金使途 | 金額 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 設備本体 | 400万円 | 設備見積書 |
| 設置工事 | 100万円 | 工事見積書 |
| 希望額 | 500万円 | 内訳合計と一致 |
900万円 ÷ 年間簡易キャッシュフロー100万円 = 債務償還年数9年
設備資金では、見積額に加えて、支払時期、設置完了日、稼働開始日、自己資金で支払う部分を説明できるよう整理します。
希望額を複数案で比較する
希望額を一つに決める前に、複数の金額で借入後の数値を比較すると、金額変更による違いを確認できます。年間簡易キャッシュフロー100万円、既存借入残高600万円の場合は次のとおりです。
| 希望額 | 借入後残高 | 債務償還年数 | あわせて確認する内容 |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 800万円 | 8年 | 資金使途のうち何を支払うか |
| 300万円 | 900万円 | 9年 | 支払予定をどこまで含めるか |
| 500万円 | 1,100万円 | 11年 | 使途・返済期間・資金繰り |
債務償還年数の長短だけで希望額を決めるのではなく、それぞれの金額で何を支払い、借入後の月次資金繰りがどうなるかを並べます。
金融機関へ希望額を説明する例
希望額を説明する際は、「余裕を持ちたいから500万円」といった結論だけではなく、第三者が確認できる数値・日付・資料へ置き換えます。
内訳が確認しにくい説明
今後忙しくなりそうなので、余裕を持って500万円を希望します。
計算過程を示す説明
7月末支払いの商品仕入200万円、8月末までの外注費120万円、売上入金までの固定費180万円、合計500万円に充てます。各金額は見積書と資金繰り表に記載しています。
設備資金であれば、次のように整理できます。
金額だけの説明
新しい設備を購入するため、500万円を希望します。
見積額と日程を示す説明
設備本体400万円と設置工事100万円に充てます。支払予定日は8月31日、稼働開始予定日は9月15日です。見積書2通と導入後の資金繰り表を添付しています。
説明前に準備する資料
- 資金使途ごとの金額・支払日を記載した一覧
- 見積書、発注書、請求書、契約書など金額を確認できる資料
- 直近の試算表・決算書
- 既存借入の残高・年間返済額・返済予定表
- 借入前後の資金繰り表
- 希望額を加えた場合の借入残高・債務償還年数
融資希望額についてのよくある質問
希望額は多めに記載した方がよいですか?
多め・少なめという基準だけで決めるのではなく、資金使途ごとの金額と支払時期を積み上げ、自己資金で支払う部分を区分します。そのうえで、希望額を加えた借入後残高と資金繰りを確認します。
簡易キャッシュフローの10年分までなら借りられますか?
10年は自己試算で使われる目安の一つであり、借入金額の上限を示すものではありません。融資の可否・金額・条件は、金融機関が個別に決定します。
赤字の場合、希望額を計算できませんか?
経常利益と減価償却費の合計が0円以下の場合、簡易キャッシュフローを使った債務償還年数は計算できません。資金使途、今後の入出金、既存借入、改善施策の実行状況などを別途整理します。
過去に支援した会社では、売掛金の入金より仕入・人件費等の支払いが先行し、手元資金の不足を補うため、継続的にファクタリングを利用していました。その結果、売掛債権の早期資金化に伴う手数料負担が重くなり、利益と資金繰りをさらに圧迫していました。
そこで、月別資金繰り表を使って運転資金の不足額と不足期間を算出し、融資資金を運転資金へ充てることでファクタリング利用を終了する計画を作成しました。計画には、ファクタリング手数料の削減額、融資後の返済額、月ごとの現金残高を記載しました。
金融機関による融資実行後、同社は計画どおりファクタリング利用を終了し、手数料負担の減少によって利益と資金繰りが回復しました。赤字であることだけを見るのではなく、赤字・資金不足の発生要因と、融資後に数値がどう変化するかを確認可能な計画へ落とし込んだ事例です。
設備資金と運転資金を一緒に希望する場合はどうしますか?
設備資金と運転資金を分け、それぞれの金額・支払日・根拠資料を一覧にします。合計額だけでなく、内訳を確認できる状態にします。
希望額を変更した場合、何を再計算しますか?
借入後残高、債務償還年数、年間返済額、月次資金繰りなどを再計算します。複数の希望額を並べることで、金額変更による数値の違いを比較できます。
本記事の短縮版は、note「融資申し込み前に社長が整理したい『希望融資額の根拠』」でも公開しています。
※本記事は一般的な計算方法と説明の整理方法を紹介するものです。個別の財務・税務・法務・融資判断に関する助言を提供するものではありません。本サービスは融資の可否・金額・条件を保証するものではなく、融資の判断は金融機関が行います。